宿根草の世界

 

無機質な暮らしと街を彩る

大自然の美しさ

宿根草で新しい風景をつくる

 

宿根草とは、毎年生えてくる丈夫で元気な草花のことです。宿根草は自然そのままの姿が個性豊かで美しく、自力で生きる生命力があります。

 

自然との関りが無くなった現代にこそ、自然風の植栽は美しく感じます。自然の魅力あふれる宿根草を組み合わせて、大自然の草原のような生き生きとした生命感と、植物本来の美しさに満ちた草地をつくります。隣の宿根草と共生しながら生育する姿や、少しだけ虫にかじられた葉、宿根草の種や枯姿、茎に張ったクモの巣までもがデザインです。植物が生きているリアルな姿に感動できる、植物と自然の本当の美しさを表現しています。


 

原種の個性豊かな宿根草たち

 

ドイツの庭園。花咲く草原のような植栽



宿根草の一年

 

4月

柔らかな芽吹きと足元で咲く小花

華やかな季節への期待が膨らむ

 

5月

どんどん新緑があふれていく爽やかな季節

瑞々しい葉と花が美しい

 

6月

色とりどりの花が次々と開花する、宿根草の花盛り

草丈は夏に向けてぐんぐん伸びていく


 

7月

あざやかに輝く宿根草が季節を謳歌する

茎葉が立体感に立ち上がる、豪華でにぎやかな風景

 

8月

真夏に咲く力強い花々

宿根草の生育はピークに達する

 

9月

夏と秋の間の少し静かな季節

種や莢がつくるシックな植栽デザイン


 

10月

ダイナミックなシーズン最後の花盛り

生育の充実感に満ちた、開花と実りのコンビネーション

 

11月

紅葉と枯姿。静寂の庭で秋の深まりを感じる

宿根草たちが残していった、地上のアート

 

12月

枯姿の雪化粧

最後の最後まで四季の変化を見つめる



共生する宿根草

ドイツの植栽技術

ドイツを中心として欧米では、宿根草が都市緑化に積極的に取り入れられ、宿根草の生態に基づいた植栽方法が研究されています。私たちはドイツの植栽技術を取り入れ、現代にふさわしい植栽デザインを考えています。


 

ドイツの植栽試験場

共生可能な組み合わせと洗練されたデザインを研究している

 

ドイツの乾燥した気候で生育する宿根草のエリア

自らの種子で世代交代しながら美しさを保っている



生態を考慮して組み合わせる

 

宿根草には性質の強さや背丈などの生育上の特徴に加え、それぞれの生態があります。生態とは生き方であり、宿根草がどのような根を持ち、どのように殖えていくかを知ったうえでデザインを考える必要があります。例えば、株が大きくなるもの、地下茎で殖え広がるもの、種で遠くに移動するものなどがあります。これら生態の違いを考慮しなければ、競争力、繁殖力の強いものだけが殖え、美しいコンビネーションは長続きしません。

 

自然界では宿根草同士が共生し、美しい草地をつくりだしています。私たちの植栽では自然を手本とし、流通している宿根草を共生可能なもの同士で組み合わせ、自然に近い状態をつくりだします。そうすることで組み合わせが安定し、長期間美しさを保つことができます。


 

ニッコウキスゲの自生地(富山県)

様々な宿根草と混ざり合って生育している

 

庭のニッコウキスゲ(富山県)

共生可能なアヤメ等と混植している



草花らしいナチュラルなデザイン

 

同じ場所で様々な宿根草が共生し、季節によって表情が大きく変化していきます。春は地面からの芽吹きと同時に、背の低い宿根草の開花が始まり、夏には背の高い宿根草が春の宿根草を追い越して開花します。季節の花々が立体的に重なり、繊細で奥深いコンビネーションが生まれます。いつ見ても表情が違う、まるで自然に生えてきたかのような、飽きのこない美しさです。

 

ドイツの植栽技術によって宿根草の自然な魅力を引き出し、野山の草花らしいナチュラルな雰囲気を楽しむことができます。宿根草たちの様子をじっくりと観察し、新しい変化を見つけることが日々の楽しみとなっていきます。 


 

春の芽吹きの風景(ドイツ)

宿根草の株間にチューリップが植えられ、春の花木と共に庭を彩る

 

初夏の柔らかな宿根草の草地(ドイツ)

繊細な姿が重なり合うナチュラルな雰囲気



余計なメンテナンスを抑える

 

様々な宿根草がバランスよく生育することで地面がしっかりと覆われ、雑草が繁茂するスペースが少なくなります。共生可能な宿根草を組み合わせることで、葉と葉、根と根が複雑に重なります。見た目はナチュラルな雰囲気となり、地上と地中からの雑草の侵入を防ぎます。また、季節が進むごとに伸びていく葉が汚れた葉を隠し、密に茂ることによって茎が雨風で倒れにくくなります。メンテナンスは、宿根草が美しく生育するために最低限の手助けをするイメージで行います。


 

株でまとまるものと地下茎で殖えるものを組み合わせて植栽

雑草を抑えながらナチュラルな雰囲気をつくる

 

大きな宿根草の株間で生育できるフッキソウ

雑草が入り込む隙間を無くしていく



混植のイメージ

 

混植(こんしょく)とは、共生可能な宿根草を不規則に配置することです。宿根草は種や地下茎で混ざり合うように茂っていくので、混植にすることで初期のイメージが崩れにくくなります。また、意図的な配置による違和感を抑え、わざとらしくない雰囲気に仕上がります。一緒に植えるものの生態のバランスを大切にして、植栽10年後の様子を想像しながら組み合わせを考えています。


 

不規則な配置。異なる生態の宿根草同士が隣り合う

自然に生えてきたかのような雰囲気をつくる

 

宿根草の姿が不規則に重なっていく透明感

どの方向から見ても美しい



宿根草のメンテナンス

 

生育

宿根草はゆっくりと生育します。植栽3年目で本来の大きさになります。

 

除草

1ヶ月~1ヶ月半に一度、定期的に雑草を手でむしり取ります。根まで完全に除去する必要はありません。

 

切り戻し

適宜切り戻すことで美しく開花するものがあります。植物を切ることは不自然な見た目につながり手間もかかるので、切り戻しが必要なものは最小限に抑えます。

 

草姿整理

風雨などで茎が倒れてきた場合、茎葉を切りつめることで姿を整えます。支柱は使いません。

 

枯れ茎の切り倒し(自然のマルチング効果)

冬に枯れた茎葉を切り倒し、植栽スペースに敷きつめます。枯れた茎葉は分解され養分となり、腐植質で地面が覆うことで雑草を抑え、土壌の湿度が保たれます。

 

株分け

植栽後7-10年後に、種類により株分けする必要が出てきます。株分けすることで生育の勢いが維持され、美しさが長続きします。株を掘り上げて4~8等分に分けて植えなおします。

 

水やり、施肥、薬剤散布

丈夫な宿根草のみを使用した場合、基本的には不要です。対処が必要な場合は部分的に行います。

 

メンテナンスの注意点

植栽スペースの土をなるべく踏まないように気をつけます。土が踏み固められると、宿根草の生育が衰えます。


 

宿根草の枯れた茎葉

 

両手バサミ等で20㎝ほどに切り倒して敷きつめる



宿根草ならではの

植栽デザイン

 

背丈30~80㎝程の宿根草を中心に選び、美しい草原をイメージしてデザインを行います。宿根草はまとめて植栽すると草原らしい雰囲気が引き立つため、柔らかな雰囲気が欲しい場所に宿根草の草地を面的に配置します。一般の住宅であれば3~15㎡程、庭の広い住宅や店舗であれば15~50㎡程の面積に植栽します。

 

 

植栽イメージ

 

草原の中に佇む建築

建築のまわりに柔らかな草地をつくることで、建築の存在感を際立たせます。また、敷地に表情豊かな草地があることで、建築が土地の風景に馴染みます。

 

草原を通って玄関に入るアプローチ

毎日通る場所を楽しみの空間にします。仕事や学校に行く前に、少しだけ植物の変化を観察する、ささやかな楽しみの時間です。 気持ちの良い緑で家族を出迎え、お客様をもてなします。 

 

草むらに囲まれて過ごすナチュラルテラス

ハイキングの時に気持ちよくひと休みしているような、自然の中でくつろぐ空間です。すぐ目の前に背の高い草が生えています。宿根草の風に揺れる姿と、サラサラと葉がふれあう音に囲まれて、 人間の感覚を癒します。

 

木々の足元を森の草花が覆うフォレストガーデン

里山の雑木林の優しい雰囲気を、しっとりとした森の宿根草で更に引き立てます。 夏の木陰をもっと涼やかに表現し、瑞々しい森のリアルな表情に癒されます。

 

街中に草原がある、のびやかな風景

道路、ビル、電柱...直線的で堅苦しい街並みに宿根草の自然な曲線があることで、ホッとする風景になります。大きな樹木の枝は短く切り詰められ、低木は四角く刈り込まれてしまうことが多いなか、宿根草だけは自然の姿で街の雰囲気を柔らかに保ってくれます。



人と身近な植物の歴史

古くから日本人は自然と寄り添う暮らしをしてきました。自然に適度に手を入れ続けることで、キキョウやオミナエシなどの美しい宿根草が身のまわりに生える環境がありました。人々は身のまわりの植物を愛で、その繊細な感覚で四季の変化を楽しんできました。

 

人々は都市ができるたびに、身のまわりに植物が無くなるたびに、暮らしに植物を取り入れて癒しを求めてきました。平安時代には庭に草花を植えていた記録があり、和歌を通じてその感動を知ることができます。また江戸時代の人口が密集していた時も、多くの人がこぞって植物を求めてきました。そして、産業革命後に環境と暮らしが激変したイギリスやドイツでも、街と暮らしに植物が積極的に取り入れられ、その世界的な流れが現在まで続いています。

 

日本では自然を大切にする独特の倫理観によって、比較的近代まで身のまわりに豊かな環境が残っていたようですが、今では見る影もありません。環境の激変により美しい植物は見られなくなりましたが、街と暮らしに取り入れていくことで、植物とふれあう機会を増やすことができます。特に宿根草は手ごろな大きさで自然そのままの姿を楽しめるため、積極的に取り入れやすい植物であるといえます。植物の姿を美しいと感じる普遍的な感覚を忘れないよう、そして植物の癒しが当然のものとしてあるよう、街がある限り植物は植え続けられるものなのです。

 

 

日本のオミナエシ

古くから愛され続ける、可憐な夏の宿根草